サックスの名曲20選|初心者が吹きたい憧れの定番
サックスの名曲20選|初心者が吹きたい憧れの定番
サックス曲の選び方は、楽器を手にした瞬間に「何を吹くか」でつまずきやすい。サックスはE♭管のアルト、B♭管のテナーやソプラノという違いがあり、同じ憧れの1曲でも原曲キーのままでは調号も音域も重くなるからだ。
サックス曲の選び方は、楽器を手にした瞬間に「何を吹くか」でつまずきやすい。
サックスはE♭管のアルト、B♭管のテナーやソプラノという違いがあり、同じ憧れの1曲でも原曲キーのままでは調号も音域も重くなるからだ。
楽器店で年間100名以上の入門者を見てきた経験でも、買った楽譜が棚に戻るのは、実力より2段階上の曲をそのまま選んだときがほとんどだった。
だからこそ、この記事では『憧れの曲』と『いま吹ける曲』の距離を、音域・テンポ・調号の3つで分解し、20曲を難易度順に並べ直していく。
目的別・サックスの名曲20選早見表
サックスの名曲20選は、鑑賞用の名曲集ではなく「自分の今の力で吹けるか」を見極めるための早見表として並べています。
店頭で難易度★2の楽譜を持つ人と最高音を確かめるたび、表記より先に見るべきものがあると痛感してきました。
だからこそ、最初に目的別の入口を示し、そのあとで20曲を同じ物差しで比べられるようにします。
こんな人はこの曲から:目的別おすすめ早見表
始めて3か月以内なら『君をのせて』、ジャズセッションに出たいなら『枯葉』、憧れのソロを吹きたいなら『ケアレス・ウィスパー』、発表会で映える曲なら『ルパン三世のテーマ'78』が入口になります。
こうして先に答えを置くのは、曲名の知名度よりも「今の自分が最後まで吹き切れるか」を軸にしたほうが、練習が途切れにくいからです。
店頭のホワイトボードに同じ案内を貼っていた時期もあり、「これのおかげで迷わなくなった」と言われたことが、この記事を難易度順で組む発想につながりました。
名曲20選 難易度・音域・テンポ比較表
20曲は易しい順に、定番6曲、ジャズ5曲、洋楽ポップス5曲、憧れ枠4曲の4群に分けています。
全曲を同じ列でそろえるのは、曲ごとの魅力を並べるだけでなく、音域・テンポ・調号のどこが壁になるかを横並びで見える化するためです。
アルトはE♭管、テナーとソプラノはB♭管なので、同じ原曲でも楽譜上の調号が変わり、原曲キーと吹きやすさが一致しないこともあります。
| 曲名 | ジャンル | 推奨サックス | テンポ | 調号 | 音域 | 難易度 |
|---|---|---|---|---|---|---|
| 君をのせて | 定番 | アルト | ゆったり | 1個 | 1オクターブ前後 | 易 |
| アメイジング・グレイス | 定番 | アルト | ゆったり | 1個 | 1オクターブ前後 | 易 |
| イエスタデイ | 定番 | アルト | 中庸 | 1〜2個 | 1オクターブ半以内 | 易 |
| ムーン・リバー | 定番 | テナー | ゆったり | 2個 | 1オクターブ半以内 | 易 |
| アイノカタチ feat.HIDE | 定番 | アルト | 中庸 | 2個 | 1オクターブ半以内 | 易 |
| フライ・ミー・トゥ・ザ・ムーン | 定番 | テナー | やや速め | 2個 | 1オクターブ半以内 | 易〜中 |
| 枯葉 | ジャズ | アルト | 中庸 | 2〜3個 | 1オクターブ半 | 中 |
| テイク・ファイヴ | ジャズ | アルト | 速め | 3個 | 1オクターブ半以上 | 中〜難 |
| モーニン | ジャズ | テナー | 中庸 | 3個 | 1オクターブ半 | 中 |
| マイ・フェイバリット・シングス | ジャズ | ソプラノ | 速め | 3個 | 1オクターブ半以上 | 難 |
| ムーンライト・セレナーデ | ジャズ | テナー | ゆったり | 2個 | 1オクターブ半以内 | 中 |
| ベイカー・ストリート | 洋楽ポップス | テナー | 中庸 | 2個 | 1オクターブ半以内 | 中 |
| ケアレス・ウィスパー | 洋楽ポップス | テナー | ゆったり | 2個 | 1オクターブ半以内 | 中 |
| ジャスト・ザ・トゥー・オブ・アス | 洋楽ポップス | テナー | やや速め | 3個 | 1オクターブ半 | 中〜難 |
| スムース・オペレーター | 洋楽ポップス | アルト | 中庸 | 2〜3個 | 1オクターブ半 | 中 |
| ピンク・パンサーのテーマ | 洋楽ポップス | アルト | ゆったり | 2個 | 1オクターブ半以内 | 中 |
| ルパン三世のテーマ'78 | 憧れ枠 | アルト | 速め | 3個 | 1オクターブ半以上 | 難 |
| 情熱大陸 | 憧れ枠 | アルト | 速め | 3個 | 1オクターブ半以上 | 難 |
| グラズノフのアルトサクソフォン協奏曲 | 憧れ枠 | アルト | 変化あり | 4個以上 | 2オクターブ近く | 難 |
| ボレロ | 憧れ枠 | ソプラノ/テナー | 中庸 | 1〜2個 | 狭め | 難 |
テイク・ファイヴは1959年発表で、アルト奏者ポール・デスモンドの作曲、しかも5拍子が関門です。
ベイカー・ストリートは1978年発表で、冒頭リフがポップス史上最も有名なサックスソロの一つとして語られます。
ケアレス・ウィスパーは11人の奏者を試した末の録音で、譜面の数字だけでは読めない再現の難しさがある曲だとわかります。
ルパン三世のテーマ'78はソロ版が難易度D、四重奏版がC+と編成で変わり、情熱大陸のアルト譜も初〜中級表記ながら原曲ヴァイオリンの速いパッセージが残ります。
ボレロは1928年作曲でソプラノとテナーのみが登場し、アルトの出番がありません。
グラズノフの協奏曲は弦楽オーケストラ伴奏の単一楽章で、クラシックの登竜門に位置づけられます。
難易度を決める3つの基準:音域・テンポ・調号
難易度は、音域、テンポ、調号の3つに分けて考えると見えやすくなります。
音域は最高音が出せるかどうか、テンポは指が回るかどうか、調号はフィンガリングの複雑さをどれだけ増やすかを左右します。
店頭で難易度★2の楽譜を持ってきた人に、実際の最高音を一緒に確認したらまだ出ない音だったことが何度もあり、そこから「表記」より「音域」を先に見るようになりました。
初心者が最後まで吹き切りやすい目安は、テンポ90前後、調号1〜2個、音域1オクターブ半以内です。
3つのうち2つを満たせば手が届くと考えると、曲選びはぐっと現実的になります。
たとえばゆったりした曲でも高音が連続するなら負荷は上がりますし、音域が広くてもテンポが落ち着いていれば練習の入口は作れます。
吹きたい曲を諦めず、まずはどこが壁なのかを分けて見てみましょう。
最初の1曲になる易しい定番6曲
この6曲は、始めて3〜6か月の段階で無理なく吹き切ることを狙って、易しい順に並べています。
君をのせてから始めると、音域が約1オクターブ半に収まり、跳躍も少ないため、最初の成功体験を作りやすいからです。
後半へ進むほど、音域の広さに加えてリズムや表現の難しさが少しずつ増していきます。
君をのせて/アメイジング・グレイス/イエスタデイ
君をのせては、誰もが一度は耳にしたことのあるメロディで、約1オクターブ半の中に収まるため最初の1曲に向いています。
難しさの正体は、音数の多さではなく、なじみ深い旋律をそのまま吹き切る集中力です。
つまずくポイントは、知っているはずのフレーズほど指先が先回りしてしまうことですが、だからこそ音程が外れた瞬間に自分で気づきやすい。
独学で最初に置く定番として勧め続けると、通しで吹き切れた人の割合が体感で明らかに上がりました。
教える側になる前に、30代でアコーディオンを独学で始めたとき、知らない練習曲ばかりで2か月で飽きた経験があるので、知っているメロディの強さはよくわかります。
向いているのは、まず1曲を最後まで吹きたい人です。
アメイジング・グレイスは、3拍子で跳躍が少なく、息継ぎの位置が歌詞の切れ目と一致しやすいのが強みです。
難しさの正体は、音域の狭さそのものより、3拍子の流れを途中で止めずに保つことにあります。
つまずくポイントは、ブレスを欲張って拍の頭を見失うことですが、この曲は息継ぎ設計を学ぶ最初の教材になるでしょう。
向いているのは、ゆっくりした曲で呼吸の置き方を身につけたい人です。
イエスタデイはテンポが遅く、音域も狭いので、教本の退屈さを回避しながらロングトーンの練習にも転用できます。
難しさの正体は、速さで隠せないことにあります。
遅い曲ほどブレスと音色のごまかしが効かないため、ひとつひとつの音の立ち上がりがそのまま見えてしまうのです。
つまずくポイントは、長い音を支え切れずにフレーズが痩せることですが、そこを越えると音の芯が育ちます。
向いているのは、基礎練習を曲の中でやりたい人でしょう。
ムーン・リバー/アイノカタチ feat.HIDE
ムーン・リバーは、前半の3曲より少しだけ難度が上がる位置にあり、音域の広がりを無理なく経験しやすい1曲です。
難しさの正体は、派手な跳躍ではなく、なめらかな流れを崩さずに歌い切ることにあります。
つまずくポイントは、音を並べる意識が強くなりすぎてフレーズの余白が消えること。
向いているのは、やさしい曲から次の段階へ進みたい人です。
アイノカタチ feat.HIDE は、バラードらしい伸びやかな線の中で、音域と跳躍の両方を少しずつ求められます。
難しさの正体は、メロディの親しみやすさに反して、息の配分と山場の作り方が甘いと印象が薄れる点です。
つまずくポイントは、サビに向けて力が先に尽きることですが、そこで呼吸の計画を立てる習慣が身につきます。
向いているのは、歌心を保ちながら難度を一段上げたい人です。
フライ・ミー・トゥ・ザ・ムーン:ジャズへの橋渡し
フライ・ミー・トゥ・ザ・ムーンは、この章で最も難しく、次章のジャズへの橋渡しになります。
メロディだけなら易しいのに、スウィングのリズム解釈が入ると性質が変わるのが厄介です。
つまずくポイントは、音を正確に並べてもジャズらしい揺れが出ないことですが、そこに触れることで「吹ける」と「曲として成立する」は別だとわかります。
向いているのは、最後の1曲で表現の入口まで踏み込みたい人です。
ジャズスタンダードの入口5曲
ジャズスタンダードは、テーマを吹くだけなら入口が見えやすいのに、アドリブに入った瞬間に急に壁が立ち上がるジャンルです。
この章では、その段差を5曲で見える化します。
メロディの吹きやすさと、コード進行の読みやすさ、さらにセッションで選ばれる理由まで押さえると、何から始めればよいかがはっきりします。
枯葉/テイク・ファイヴ
『枯葉』はアドリブ入門曲として最も選ばれる定番で、コード進行が2つの調をほぼ交互に往復するため、耳と譜面の対応をつかみやすい曲です。
『枯葉ならメロディは吹けます』と言うお客さんに1コーラス吹いてもらうと、途中で止まってしまう場面を何度も見ました。
テーマは吹けても、コードを追いながら音を組み立てる段階で手が止まるので、まさに「メロディとアドリブは別物」だと教えてくれる一曲です。
『テイク・ファイヴ』は1959年発表、アルトサックス奏者ポール・デスモンドの作曲で、サックス奏者が書いた曲だけにテーマ自体は吹きやすいです。
最大の関門は5拍子で、足で4拍を刻む感覚のままだと拍の束ね方が崩れます。
実際、足踏みを4拍で数え続けていた人に、上体で1・2・3、1・2と分けて数えてもらったら、その場で吹けるようになりました。
指先より先に、体で拍を覚える必要がある曲です。
モーニン/マイ・フェイバリット・シングス
『モーニン』はテーマが呼びかけと応答の掛け合い構造になっていて、そのまま記憶に残りやすい曲です。
セッションで定番として挙がるのも、複雑な装飾よりフレーズの対話感が前に出るからでしょう。
コード進行も、まずテーマをなぞる段階では追いやすく、アドリブに入ったときに「どの音で返すか」を考える入口として使いやすい位置にあります。
『マイ・フェイバリット・シングス』は、同じ定番でも『モーニン』とは違って、モチーフの反復をどう変化させるかが見どころになります。
テーマは覚えやすくても、その先では音の置き方や跳躍の処理が問われるため、ただ吹くだけでは終わりません。
セッションでは、メロディの認知しやすさと、アドリブでの展開余地の両方を試せる曲として扱われます。
| 曲名 | テーマの吹きやすさ | アドリブの壁 | コード進行の目安 | セッションで選ばれる理由 |
|---|---|---|---|---|
| 枯葉 | 高い | 調の往復を追う力が要る | 読みやすい | 最初のアドリブ曲にしやすい |
| テイク・ファイヴ | 高い | 5拍子の体感が要る | 拍の取り方が難しい | 5拍子の定番として通りがよい |
| モーニン | 高い | 掛け合いの流れを保つ力が要る | 追いやすい | テーマの印象が強い |
| マイ・フェイバリット・シングス | 高い | モチーフ展開が要る | 展開の幅が広い | 変化をつけやすい |
ムーンライト・セレナーデ:吹奏感で聴かせる1曲
『ムーンライト・セレナーデ』は指も進行も難しくないのに、音色とロングトーンだけで聴かせる曲です。
派手なパッセージが少なく、音の立ち上がり、息の流れ、余韻の置き方で印象が決まります。
だからこそ、技術の量より吹奏感の質がそのまま出る一曲として、この章では性格の違う存在に置いておきたいです。
メロディは吹けるのに「なぜか曲にならない」と感じるなら、ここで音の運び方を確かめてみてください。
洋楽ポップスの名サックスソロ5曲
『この音が吹きたくてサックスを買った』という憧れは、実は短いソロほど強く試されます。
数十秒しかないフレーズは逃げ場がなく、音程、タイミング、音色、ビブラートの粗さまで一気に聞こえてしまうからです。
だからこそ、この章では5曲を同じ4段構造で見ていくと、難しさの正体が「指が回るか」ではないことが見えてきます。
ベイカー・ストリート/ケアレス・ウィスパー
『ベイカー・ストリート』は1978年発表で、冒頭のリフはポップス史上もっとも有名なサックスソロと評されることが多い曲です。
音数そのものは多くありませんが、店頭で試奏してもらうと、ほぼ全員がテンポを速く取りすぎます。
原曲より遅く感じるくらいで合っていると伝えると、その場で音が変わるのは、間を置く勇気が音楽の説得力につながるからでしょう。
指づかいよりも、音の置き方と息の流れをどう保つかが問われる1曲です。
『ケアレス・ウィスパー』は、11人の奏者を試した末に決まった録音として知られています。
ここが示しているのは、同じ譜面でも同じ結果にならないという厳しさです。
毎年、これを吹きたくて来店する人は必ずいますが、原曲と同じ雰囲気まで届く人はごくわずかでした。
音符は簡単でも、わずかな息の角度や揺れ方で印象が崩れるので、初心者ほど「なぜこんなに似ないのか」と壁にぶつかりやすいのです。
ジャスト・ザ・トゥー・オブ・アス/スムース・オペレーター
『ジャスト・ザ・トゥー・オブ・アス』はソプラノサックスの代表曲で、アルトで吹くと印象がかなり変わります。
つまり、原曲の音色を再現したいなら、運指や譜面以前に楽器選択そのものが関わってくるわけです。
ここがポップスの名サックスソロの面白いところで、同じ旋律でも管の種類が変わるだけで輪郭が別物になる。
音の明るさ、張り、細い伸び方まで含めて、原曲キーとアルト譜の関係を考える必要があります。
『スムース・オペレーター』もまた、短いフレーズの中に色気と滑らかさを求められる曲です。
タンギングを強く立てすぎるとフレーズが角ばり、逆に息だけで流しすぎると芯が消えます。
つまり、難しいのは速さではなく、なめらかさの中に必要な輪郭を残すことです。
音色、ビブラート、タンギングの配合が少しずれただけで、都会的なムードが薄れてしまいます。
ピンク・パンサーのテーマ:脱力が命の1曲
『ピンク・パンサーのテーマ』は、脱力が命の1曲です。
力むとあの気だるい質感が出ず、譜面どおりに吹いても別物になります。
だからこそ、技術よりも力の抜き方を要求する曲として、この章の締めにふさわしいのです。
短いのに難しい、というより、短いからこそ誤魔化せない。
サックスの憧れ曲は、派手な速さではなく、音の置き方と息づかいの精度で勝負が決まります。
上級者への憧れ枠4曲
ルパン三世のテーマ'78、情熱大陸、グラズノフのアルトサクソフォン協奏曲、ボレロは、いま吹けなくてよい到達目標として並べると見通しが立ちます。
どれも同じ「憧れ枠」ですが、難しさの理由は音数の多さだけではなく、編成、テンポ、スタミナ、音域、そして本番で崩れない再現力にあります。
数年で届く曲と、レッスンや本番機会を重ねてようやく見える曲を分けて考えると、練習の焦りはかなり減るでしょう。
ルパン三世のテーマ'78/情熱大陸
ルパン三世のテーマ'78は、同じ曲名でも編成で手触りが変わる代表です。
ソロ版が難易度Dなのに対して四重奏版はC+で、和声を分担できるぶん、必要な指の忙しさや息の張り方が少し下がります。
発表会でソロ版を諦めた生徒たちが四重奏に切り替え、結果として大成功した場面を見たことがありますが、あの判断は逃げではなく、演奏成立に向けた正しい選択でした。
楽譜選びで到達可否が決まる、わかりやすい好例です。
情熱大陸のアルトサックス譜は初〜中級帯と案内されることが多いのに、手にした瞬間に難しく感じやすいのは、原曲のヴァイオリンの速いパッセージがそのまま残っているからです。
実際に「情熱大陸を吹きたい」と初〜中級の楽譜を買っていった人が、1か月後に「表記が間違ってるんじゃないか」と戻ってきたことがありました。
譜面を一緒に見ると、表記は間違っていませんでした。
問題は、タンギング速度と指回しが見た目以上に要求される点だったのです。
ここで鍛えたいのは、速い16分音符を曖昧にしない舌と、拍の中で崩れない指です。
グラズノフ:アルトサクソフォン協奏曲
グラズノフのアルトサクソフォン協奏曲は、弦楽オーケストラ伴奏の単一楽章で、クラシックサックスの登竜門です。
ロマン派的な書法でアルトの美しい音域を長く歌わせる作品ですが、やさしい旋律に見えても、息の流れを切らさずにフレーズを保つ集中力が要ります。
コンクール本番曲として扱われる水準にあるのは、音を並べるだけでは成立せず、音色の統一、レガート、跳躍後の着地まで含めて評価されるからです。
この曲に近づくには、アルティシモや循環呼吸そのものより、まず長いフレーズを崩さない基礎が土台になります。
そのうえで、速いパッセージを音色を変えずに処理し、弱音でも芯を失わないコントロールを積み上げていく流れです。
数か月で触れる譜面ではなく、レッスンで音の質を見てもらいながら、ステージ経験を重ねてようやく射程に入る曲だと考えるとよいでしょう。
数年単位で見て、少しずつ近づくタイプの目標です。
ボレロ:出番は短く緊張はいちばん長い
ボレロは1928年作曲で、曲中にソプラノサックスとテナーサックスが順に登場します。
アルトの出番はないので、アルト奏者が「いつか吹きたい」と思うなら、まず楽器の役割から見直す必要があります。
演奏上の難所は派手な技巧ではなく、同じリズムの執拗な反復の中で、音量と緊張感を最後まで保つことにあります。
短い出番でも、待機時間の長さが精神的な重圧になる曲です。
だからこそ、ボレロは技術の完成度だけでなく、舞台での構え方まで試されます。
テンポの揺れを起こさず、入る瞬間に音色を揃え、長いクレッシェンドの流れに乗るには、本番機会でしか身につかない感覚があるのです。
ルパン三世のテーマ'78や情熱大陸が数年先の目標なら、グラズノフとボレロは、レッスンでの積み上げと本番経験がそろって初めて届く景色だと見ておくと、憧れは無理のない計画に変わります。
吹けない憧れの曲を手前に引き寄せる3つの方法
吹けない憧れの曲は、腕前だけで押し切るより、入口を作り直したほうが早く手前に引き寄せられます。
移調で調号を減らし、テンポを落として定着させ、必要な部分だけを切り出すと、「今は無理」が「ここなら届く」に変わりやすいからです。
大切なのは、曲そのものを諦めることではなく、曲タイプに合う到達ルートを選ぶことです。
移調して調号を減らす
調号が4個以上ある曲は、見た目以上に指が忙しくなります。
そこを1〜2個まで減らすだけで、押さえる鍵盤の迷いが減り、フィンガリングの負荷がすっと下がるのです。
実際、調号4個の曲に苦しんでいた人へ移調譜を渡したら、その場で通せてしまい、本人がいちばん驚いていました。
難しかったのは曲ではなく、調号だったとわかった瞬間でした。
伴奏音源と合わせない独奏なら、移調のデメリットはほぼないと考えてよいでしょう。
テンポを70%に落として積み上げる
指が回らない曲には、テンポ調整が効きます。
原曲テンポの70%から始めて、ノーミスで3回通せたら5ずつ上げる。
この刻み幅がいちばん定着しやすいです。
いきなり原曲テンポで繰り返すと、毎回同じミスをなぞるだけになり、ミスの形そのものを体に覚え込ませてしまいます。
原曲テンポでひたすら繰り返していた人が、同じ場所で毎回崩れていたのに、70%へ落として3回通してから戻した途端、その箇所が消えた例もありました。
速く練習することと、速く吹けることは別だと実感しやすい場面です。
サビ・ソロだけを切り出す
曲が長すぎるときや、本命がソロだけのときは、最初から全体を追わなくて構いません。
ベイカー・ストリートやケアレス・ウィスパーのように、聴かせたいのがソロ部分なら、まずそこだけを独立した課題にすると見通しが立ちます。
サビ8小節だけ仕上げるやり方でも、達成感は早く来ますし、そこから前後へ広げる流れも作れます。
グラズノフのように全曲を一気に追うより、まず吹ける核を作るほうが現実的です。
情熱大陸なら移調とテンポ70%を組み合わせ、グラズノフなら部分抜き出しに寄せる、というように曲ごとの最適解を選びましょう。
テイク・ファイヴの5拍子やボレロの楽器指定は、移調でもテンポでも越えられません。ここで分けたいのは、構造的な壁と技術的な壁です。壁の種類が違えば、選ぶ手も変わります。無駄な練習を減らす近道は、まずどちらの壁かを見極めることです。
名曲を1曲吹き切るまでの練習ステップ
名曲を1曲吹き切るには、曲選びの段階で終わらせず、買う前の見極めと練習の順序まで先に決めておくのが近道です。
まず最高音と調号で「自分が今の指で吹けるか」を判定し、手に入れたら吹きたい部分から入って、通しへ進む基準を持つ。
そうすると、1曲を仕上げる流れがそのまま次の1曲選びにつながります。
楽譜を買う前に最高音と調号を見る
楽譜を買う前に見るのは、難易度表記ではなく最高音と調号の2点で足ります。
難易度は出版社ごとに基準がずれますが、最高音は音域の上限、調号はその曲の読みやすさをそのまま示すため、手元の楽器で無理なく出せるかを即断しやすいからです。
店頭で最高音を先に確認する習慣を勧めるようになってからは、「買ったけれど吹けなかった」という返品相談が目に見えて減りました。
最初の失敗を防ぐだけで、1曲目の入り口はずっと軽くなります。
部分練習から通し練習に移る目安
練習は頭からではなく、サビ8小節のような一番吹きたい部分から始めます。
最初に達成感が来る場所を先に取ると、譜読みの負担より先に「鳴った」という手応えが残り、練習を続ける理由がはっきりするからです。
頭から順に追うやり方で2か月かかっても通せなかった生徒が、サビから入る形に変えた途端、2週間で人前で吹けるところまで進みました。
通しに移る目安は、部分ごとにノーミスで3回通せるようになったときです。
この基準がないまま通し練習に入ると、毎回同じ箇所で止まり、曲そのものが苦手になります。
ℹ️ Note
先に部分を固めてから全体に広げると、練習の順番がそのまま自信の積み上げになります。弾けない箇所を毎回踏みに行くより、できた場所を増やしてからつなぎましょう。
2曲目の選び方:隣の難易度に横移動する
2曲目は、比較表で隣の難易度に横移動するのが扱いやすいです。
いきなり2段階上げると、指回りや調号の負担が跳ね上がり、1曲目でつかんだ感覚がほどけやすいからです。
同じ群でもう1曲を選ぶか、次の群の最初の1曲に進めば、難しさの差が小さく、練習の再現性も保ちやすいでしょう。
20曲を難易度順に並べた早見表は、そのまま次の地図になります。
吹けた1曲の隣へ進むだけで、選曲と練習が一本の線でつながります。
この記事の20曲はあくまで出発点です。
吹きたい曲が別にあるなら、最高音、調号、そして今の練習量の3基準で自分で測ってみてください。
測るための道具を手渡せれば、次に選ぶ1曲も迷いにくくなります。
おすすめです。
音楽専門学校でサックスを専攻後、楽器店スタッフとして10年勤務。年間100名以上の入門者に楽器選びをアドバイスしてきた経験から、予算・環境に合った現実的な提案を得意とします。
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